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広島高等裁判所 昭和51年(う)140号 判決 1976年11月05日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人西本克命作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、広島高等検察庁検察官事務取扱検事佐藤博敏作成名義の答弁書に記載されたとおりであるから、これらをここに引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。

控訴趣意中訴訟手続の法令違反を主張する部分について。

所論は、起訴されていない犯罪事実を量刑の事情として考慮することは許されないにもかかわらず、原判決には起訴されていない犯罪事実を量刑の事情として考慮した訴訟手続の法令違反があり、この誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるというにある。

そこで記録を調査して検討するに、原判決が(量刑の事情)の欄で、「他に起訴されていない同種押し売り事犯が西日本各地において相当多数あることも窺われ、被害は広範囲で、その額は約一億円という甚大なものである。…………被告人らが得た利得は、ロープの仕入れ代等の経費を除き全体として約七〇〇〇万円以上の莫大なものであるが、本件所為以外の分については被害弁償もなされていない。」と判示していることは所論の指摘するとおりであるが、それは他の恐喝の事実を具体的、個別的に判示しているのではなく、その前後の判文をも併せ熟読すれば、右は本件起訴にかかる犯罪事実について、被告人の性格、経歴、犯罪の方法等の情状を推知するための一資料として、起訴されていない犯罪事実を考慮したものと認められ、これをいわゆる余罪として認定して処罰する趣旨で重く量刑したものとまでは解されない。起訴されていない犯罪事実を被告人に対する量刑の一情状として考慮することは違法ではないから(最高裁判所昭和四一年七月一三日大法廷判決、刑集第二〇巻六号六〇九頁参照)、所論はその前提を欠き採るを得ない。論旨は理由がない。

控訴趣意中量刑不当を主張する部分について。

所論は、原判決の量刑を非難し、犯情に照らし刑の執行を猶予せられたいというにある。(所論中には事実誤認ないし法令適用の誤りを主張するかにみえる部分があるが、弁護人は当審第二回公判において、右は量刑不当の事情として主張するものである旨釈明した。)

そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて所論の当否について検討するに、本件の事実関係のうち被告人に関する部分は、原判決が第一の一ないし一五に認定判示するとおりであつて、被告人が、建設業者や官公庁の出先機関の長らに安全ロープ等を不当に高額で購入する旨約諾させ、その代金名下に財物を喝取し、あるいは財産上不法の利益を得ようと企て、単独あるいは三家本真也、永易博らと共謀のうえ、昭和四七年一一月一五日から同四九年九月二四日ころまでの間に前後一四回にわたり、原判示株式会社森本組広島支店外一三ヶ所において、同支店次長林禄彌外一五名に対し、自己がいわゆる暴力団に所属する者のように装い、更生資金にするため安全ロープ等を買つて貰いたい旨執拗に申し向け、もし右の要求に応じなければ同人らの業務等に対し危害を加えかねない気勢を示して同人らをしてその旨困惑畏怖させて、安全ロープ等を購入する旨約諾させて、合計五〇三万余円の金員を喝取しあるいは財産上不法の利益を得、永易博及び日野繁と共謀のうえ、昭和四九年一〇月八日、原判示広島県東広島合同庁舎内東広島農林事務所において、同事務所耕地課長円光寺秀頼を前同様の方法により困惑畏怖させて安全ロープ三巻の売買代金名下に一一万七〇〇〇円を喝取しようとしたが、同人がこれに応じなかつたためその目的を遂げなかつたという事案である。本件は被告人が単独あるいはグループで暴力団員であるように装つて会社や官公庁の出先機関に赴き、執務中の所長、課長らに対して長時間にわたつて執拗に安全ロープ等を購入するよう強要し、時価の五倍ないし一五倍という法外な価額で売り付けて五〇三万余円を喝取したまことに悪質な犯行で、被告人はその主犯であり、その犯罪の場所も中国地方、九州地方、中部地方の広域にわたつている。このような本件犯罪の性質、動機、態様、犯行回数、被害額、共犯者間における被告人の役割並びに被告人は昭和三二年二月、恐喝、脅迫罪により懲役一〇月、二年間執行猶予、付保護観察に、同三六年九月、恐喝、道路交通法違反罪により懲役一年六月に、同三九年一月、恐喝、同未遂罪により懲役二年に各処せられたほか、石川県押売防止条例違反、富山県押売防止条例違反、長野県押売防止条例違反、船舶職員法違反の罪により五回罰金刑(罰金二千円ないし七千円)に処せられていることなどの事情を併せ考慮すると、被告人の責任は重いといわざるを得ない。(なお所論は、被告人の前刑は既に言渡の効力が消滅しているから、被告人を初犯者として取扱うのが相当であるというけれども、刑の言渡は効力を失うといつても刑の言渡を受けたという事実そのものがなくなるという趣旨ではないから、これを量刑判断の資料とすることは当然のことであつて、これを違法不当視することはできない(最高裁判所昭和二九年三月一一日判決、刑集第八巻第三号二七〇頁参照)のみならず、昭和三九年一月二九日確定の被告人に対する懲役二年の刑の言渡は、被告人が昭和四四年九月二三日船舶職員法違反罪で罰金刑に処せられ、その後一〇年を経過していないため、その効力は未だ消滅していないから、右主張は失当である。)本件各犯行の態様、被告人が本件を犯すに至つた事情、被害者側の落度、被害弁償を行つていること、利得について所得の確定申告を行い、所得税等を納付していること、被告人の逮捕後の態度、現在の健康状態、生活態度、家庭事情などについて所論の指摘する諸点を被告人のため十分有利に斟酌してみても、被告人を懲役二年六月(求刑懲役五年)に処した原判決の量刑はやむを得ないところであり、重きに失して不当であるとは認められない。また本件が刑の執行を猶予すべき事案とは考えられない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却し、主文のとおり判決する。

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